東京地方裁判所 昭和27年(ワ)3602号 判決
原告 古沢学之
被告 松本公三
一、主 文
本件訴を却下する。
訴訟費用は、原告の氏名を冒用して本訴の提起を亡弁護士山崎今朝弥に委任した者の負担とする。
二、事 実
本件訴状によれば、弁護士山崎今朝弥が原告の訴訟代理人となり、その請求の趣旨として、「被告は原告に対し被告所有の東京都墨田区寺島町二丁目百一番地の三、所在、別紙図面<省略>(い)(ろ)(は)(に)の各地点を結ぶ巾九尺、長さ六間半の面積約十一坪の通路の通行を妨害してはならない。訴訟費用は被告の負担とする」との判決及び請求の趣旨第一項につき仮執行の宣言を求める旨申立て、その請求の原因として、原告は東京都墨田区寺島町二丁目九十八番の宅地二百三十七坪余を所有し、右土地の便益に供する為に公道に至る通路として前記請求の趣旨第一項表示の被告所有の土地約十一坪を通行する地役権を有しているものである。然るに被告は昭和二十六年十一月頃より右通路に柵を施し杭を立て綱を張る等の通行妨害行為に出で、更に門を設け囲を廻らして通路閉鎖の挙に出でようとしたので、原告は同月十四日東京地方裁判所に通行妨害排除の仮処分を申請したが同年十二月二十六日被告の妨害をしないという申入により取下げたところ、被告は昭和二十七年一月十七日右に違約し同月二十日以後は垣根を結い柵を施し門を作る等申立てているから、右地役権を侵害する虞れがあるので被告に対し右被告所有の土地(承役地)の通行を妨害しないことの不作為を求めるため本訴に及んだ次第である。なお原告が右地役権を取得した原因は次のとおりである。第一に時効により取得したものである。すなわち右通路は始め別紙図面(い)(ほ)(へ)(に)を連結する地点に存在し、原告は大正十三年頃より右通路を使用して来たもので、表現且つ継続のものであり、昭和九年頃には右取得時効が完成していた。しかるに昭和二十六年九月頃右寺島町二丁目百一番地の分割に際し、その(一)六十三坪を山田吉道がその(二)百五坪を吉村誠次がその(三)九十二坪を被告が夫々所有することとなつたので、同人等は右地役権の存在を認めその替地として被告が(い)(ろ)(は)(に)を結ぶ地点及び吉村と共同にて(ろ)(と)(ち)(は)を結ぶ地点を原告に提供し此の中(い)(ろ)(は)(に)が本件係争部分に当るのである。従つて本件通路は時効により取得した(い)(ほ)(へ)(に)を連結する道路に替えるものであり、結局時効により取得したものである。第二に仮に以上の事実が認められないとしても、地役権設定契約により設定されたものである。すなわち昭和二十六年九月頃原告及びその附近居住者たる谷井、伊藤、手塚と被告との間に無償、無期限にて前記地役権を設定する合意が成立したものであるというのであり、なお右弁護士山崎今朝弥は原告訴訟代理人として右訴訟を追行した。<立証省略>
原告本人は昭和二十九年九月九日午前十時の本件口頭弁論期日に出頭し「自分は本訴の提起については何等関知しない。又何人に対しても本訴提起につき訴訟委任をした事実はなく本件記録に編綴してある自分名義の弁護士山崎今朝弥に対する訴訟委任状は自分の作成したものでなく、署名捺印とも自分のものではない」と述べた。
被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張の事実中原告主張の仮処分のあつたことは認める。寺島町二丁目九十八番の宅地が原告の所有に属することは不知、その余は全部否認すると述べた。<立証省略>
三、理 由
原告の名を以て提起された本訴が、原告の関知しない間に提起されたものであり、原告において本訴提起の意思なく、またこれを維持する意思のないことは原告本人の当法廷で言明したところである。そこで本訴は原告以外の者(何人か不明)が原告の名において弁護士山崎今朝弥に対し本訴を提起しこれを追行するためその訴訟委任をしたものと認める外なく(弁護士山崎今朝弥は既に昭和二十九年七月二十九日死亡しその弁明をきくに由ない)、しかも本訴は原告の名を以て起されている以上本訴の原告は「古沢学之」とみるべきものであつて(いわゆる表示説による)、右原告が本訴提起を何人にも委任したことなく、本訴提起の意思なく、また本訴を維持する意思がないと言明している本件では、(弁護士山崎今朝弥に原告の訴訟代理権を証明し得ないこと及び追認を得ないこと右の事実により明かであるが、)原告の起した訴でない点にもとずき、本訴を不適法として訴を却下すべきものである。
なお訴訟費用の点については民事訴訟法第九十八条第二項第九十九条を準用し、原告の氏名を冒用して本訴の提起を亡弁護士山崎今朝弥に委任した者の負担とし、主文のように判決する。
(裁判官 飯山悦治)